遅れてきたバレンタインデー

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製作年: 2012
サイズ: 直径6x高さ7cm
材料: 苺、ダークチョコレート、薄力粉、アーモンドパウダー、ベーキングパウダー、グラニュー糖、無塩バター、卵、水飴、生クリーム
価格: ¥400

僕はいつからかバレンタインデーというものが苦手で興味がなくて、どうしようかと考えた末に、自分でケーキを焼いて周りのひとたちに渡してしまえば良いのかもしれないと考えた。2011年の2月14日、僕はホワイトチョコレートと苺のケーキを焼いた。バレンタインへの抵抗を表明してのホワイトチョコレートだったけど誰もそんなこと気にかけるはずもない。表面が黄金色の奇麗なケーキだった。おいしそうだと皆は言ってくれたけど、ナイフを入れるとどろりと液体が漏れだした。優しい皆はフォンダンショコラみたいだと言ったけれど、そのケーキは既に冷めていて、垂れだしたものは生焼けの生地でしかなかった。みんなそれでもとても優しいので美味しい美味しいと食べてくれた。それから僕は毎週の様にケーキを焼いては誰かにあげていた。

2013年2月16日。バレンタインは気がつくと終わっていた。結局興味のないイベントはそんな風に過ぎてゆく。週末の洋菓子モームに向けて何を焼こうかと考えたけど何も思いつかず、一応バレンタインらしくダークチョコレートと苺のカップケーキを適当に作ってお店に持っていった。退屈なケーキだったので、カウンターの見えるような見えないようなところに置いておいた。バレンタインに興味がない人間が作ったバレンタインのための数日遅れのケーキだったので、申し訳なかった。

僕のバレンタインへの興味のピークは多分中学生の頃。二年生の時に、友人Yの妹からチョコレートをもらったことがあった。友人Yの妹は、女友達を引き連れてふたりで現れた。そんなものには縁がないと思っていた僕はビックリしてしまい、別に友人Yの妹のことを気にした事もなかったから、顔を真っ赤にさせてもごもごとそれを受け取った。チョコレートは奇麗なラッピングがなされていて、家に帰り、ぱりっとした包み紙とホイル紙を剥がして噛むと、中から酸っぱい苺のソースが溢れて舌にふれた。とがめられるような美味しさだった。その日以来友人Yの妹が僕を避けはじめた。すれ違う時は顔を真っ赤にさせていた。僕もそうされる度に悔しくて顔を真っ赤にさせた。するとその兄である友人Yがいじわるに声を上げて笑うので、僕もなるべく友人Yの妹を避けるようになった。3月14日になった。僕が育った場所は小さな島で、おしゃれなチョコレートが買える場所なんて限られている。そんな場所恥ずかしくて行けないから、僕は近所の商店を幾つもまわって、ちいさなチョコレートをたくさん買った。Reese’sのピーナツバターカップ、チロルチョコ苺味、包み紙が金色のKissチョコ。それでも足りない気がして、居間のお菓子箱から無味乾燥な透明の包み紙にくるまれたピーナツチョコをいくつか加えた。僕はそれらを適当な箱に入れて、可愛いような気がしていたドラえもんのラッピングペーパーで包んだ。友人Yの妹に渡すように、と友人Yの妹の友達に渡した。放課後、友人Yは大人びた真っ黒なラッピングペーパーに包まれた小さな箱を僕に見せる様な見せない様なそぶりでどこかへ行ってしまった。きっと中にはとびきり苦いダークチョコレートが入っている、そんな包み紙。一緒に買いにいこうと言えば良かった、と後悔したけど遅かった。もうあと一年で彼とも会えなくなるだろう。

友人Yの妹はその後も僕を避け続けていた。あの時せめて直に渡しておけば、とふと思い出すけれど、何と声をかけて良かったのか、僕は今でもわからずにいる。そして、何と言われたか。友人Yの妹のことを思い出すと、彼女の顔よりも、彼女の兄である友人Yのいじわるな笑顔を思い出す。彼は自衛隊に入ったそうで、成人式以来会っていない。

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