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ポルボロン、又は北斗七星

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製作年: 2013
サイズ: 直径4cm
材料: 薄力粉、アーモンドパウダー、粉糖、ラード
価格: ¥400(七つ入り)

19歳の終わり頃僕は大阪の学校に通っていて、その時期に出会った35歳の人は会う度におっさんでゴメンなとこちらが気にしている訳でもないことをいつも申し訳無さそうに言っていた。10代の終わり、無理に会う必要も無いような人たちに無理して会わなければいけないほどには、切羽詰まっていたんだと思う。和歌山のマリーナシティまでドライブ連れて行ってもらい、夜は僕の部屋でご飯を作って食べた。その人がスニーカーをぬぐとさらさらの靴下に包まれた細長いつま先が現れて、見てはいけないものを見てしまった気持ちになる。奇麗にジャケットをたたみアイロンかけたてのような黒いTシャツになって、その人はソファの左側に腰をおろした。どぎまぎして冷蔵庫を開けてしまい、友人にあげるためにと少し前に母親に送ってもらったオリオンビールを出すと、ドライバーや!とつっこまれて笑った。母親からの小包の中にはちんすこうも入っていたので、それではとかわりに渡す。そいうえばスペインにポルボロンってお菓子があってそれはちんすこうに味がそっくりらしいです、修道院でつくられているとか。そうなんやとその人は一口かじる。確かに修道院ぽい質素な味やわ。いやそれはポルボロンでこれはちん…と言おうと思ったらポロポロと落ちた断片がその人の黒いシャツに金色の北斗七星を作ってきれいだった。星群に見とれていたら血管の浮いた手のほっそり長い指たちがそれを払う。流れ星の軌道で床におちた断片はもはやゴミかすにしか見えない。ポルボロンは食べながらポルボロンポルボロンポルボロンと三回言うと夢がかなうそうです。え、もう半分食べてもた。

手持ち無沙汰になって近くにあったCDを流す。こんなん好きなん、とその人はCDケースを手に取って表裏と確認した。これってバンド名?アルバムのタイトル?それはバンドの名前で、タイトルはないんです。僕が言うとその人はカチャリとケースをテーブルに戻してソファに深々と身を任せた。ぱっとしない人たちやな。多分見た目のことを言っていたのだと思う。そのぱっとしない人たちはクローゼットに閉じこもってばかりの僕の気持ちに心地よく寄り添ってくれていたのだけれど、そこまで言う必要はないかなと僕は黙っていた。その人はソファの上で大理石の像みたいに目をつぶっている。働く人たちが家に帰ってゆく。働く人たちが家に帰ってゆく。まぶたがゆっくり開く。もうけっこう、良い時間、やねんな。言われて少し迷って、おうち遠いですもんねと言うとその人の眉間がひくりと動いた。それは注視していないとわからない程のわずかな動きだったけど、見てしまった僕にあぁ悲しい顔をさせてしまったと思わせるには十分だった。せやな、じゃあそろそろ帰るわ。僕は、今よりずっと鈍感だったし鈍感でいようとしていたのかもしれない。その人が去って、僕はソファの右側に腰をかける。君がいた場所にできたからっぽの空間、それが僕の頭のなか、空虚を埋める。12時をまわる頃携帯が短く鳴って、その人からゴメンなエロいおっさんみたいやったやろというメールがきていた。今回はエロがついている。年の違いよりも何よりも僕たちはお互いに理解出来ない言葉を使ってばかりいた。 オー ウィー ウー!  テーブルの上には、食べかけのちんすこうとオリオンビール、青いCDケース。ちんすこうの断片を集めてテーブルに北斗七星を作るけれどうまく出来ない。どっとため息をついて、しばらくぼんやりと音楽に体を預ける。このガレージの中にいるときだけは安心できる、だれも僕のやり方に口をはさんだりしないから。そんな風に、ひとりになって部屋が自分だけのものに戻ってゆく感覚は好きだった。僕は好きでもないオリオンビールを開けて少しずつ飲みはじめる。返事が全く思いつかない。今度の休みには、遠くに行きたい、心がひとつ、鼓動をうつあいだに。半分飲み終わったところで携帯片手にそのまま眠ってしまった。夢の中で僕は、いつかその人に連れていってもらった難波のクラブにいた。僕はその人のもとへ歩いて行く。そして誘う、踊りましょうと。その人は言う、やあベイビー、せやね、せっかくやから。僕は言う、あなたの体はすこし宙に浮いているけれど、おかげでそのきれいなつま先を、踏みつけて粉々にしてしまうこともないでしょう。

オンリー・イン・ドリームス、オンリー・イン・ドリームス、オンリー・イン・ドリームス…

*斜字部分はWEEZER “WEEZER(The Blue Album)”からの引用